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映画、ドラマ、美術館の感想。

オッペンハイマー

2023年7月某日、フランスの映画館でオッペンハイマーを観た。

字幕はフランス語で、私の英語力とフランス語力では理解不足の部分もあった。

3時間という長い映画。実験シーンの爆発がなければ、やや単調で眠くなっていたかもしれない。

 

自らの探究心が(図らずも?)戦争に加担してしまったという点において、宮崎駿の『風立ちぬ』と同じような構成に感じる。しかし、『風立ちぬ』では主人公が設計に純粋な様子をかなり美しく描き、その純粋な探究心と頭によぎる戦争の悲劇の葛藤を描いている。

しかし、『オッペンハイマー』では主人公にはその美しさはなく、前半部分で人間性に問題があるように描かれ、同じように探究心とだんだんと詳細になってくる未来の悲劇との葛藤のようなものが描かれはしているが、実際に原子爆弾を使われてしまったショックを受けると同時に、話としては長年の周囲の人間への不配慮から、政治的に窮地に追い込まれていく様子に焦点が当てられている。

 

アメリカを中心に、太平洋戦争における原子爆弾投下の正当化を耳にすることもしばしばだが、この作品においては、アメリカの映画としては中立もしくは議論をさせない内容だった。全く正当化はしていないが、批判もしていない。

日本で教育を受ければ、必ず被爆者の経験を見聞きすることがあり、また、日本の戦争を舞台にした映画であれば、必ず普通の人の暮らしが破壊されていく場面がある。直接的に、戦争や核兵器に対する負の感情が生まれる。

オッペンハイマー』ではそういった直視できないような残酷なシーンはないため、主人公のオッペンハイマーの描写伝いにしか、負の感情が与えられないようになっている。